M34 F8 デイト M34 F8 デイト

Orient Star(オリエントスター)
M34 F8 デイト

革新的な文字盤表現技術によって描かれた
ペルセウス座流星群の新しい情景

 オリエントスターの2025年新作として、3月に発売された「M34 アバンギャルド F8 スケルトン」と「レイヤードスケルトン」。これに次ぐもうひとつのハイライトが、「M34 F8 デイト」である。M34 F8 デイトは24年3月に限定バージョンが先行発売され、6月にはレギュラーモデルが追加されたが、とりわけ後者は光学多層膜技術を取り入れたことにより、繊細なパターンと深みのある色合いを両立させた、従来の文字盤にはない表現手法が注目を集めた。

 そして25年の限定バージョンでは、文字盤にまたもや新しい技術が採用された。昨年のモデルでも表現された“M34”──つまり、このシリーズのデザインコンセプトである、ペルセウス座流星群が降り注ぐ情景を、まったく新しい手法で描いたのだ。文字盤にデザインされているのは、無数の流星が夜空を流れているかのような、ユニークな放射状のパターン。しかも、一つひとつのパターンには濃淡があるため、その表情はリアルな宇宙空間のようである。

 この独創的なデザインを可能としたのが金属ナノ粒子積層技術。これは、文字盤の原料となる金属板の表面に金属ナノ粒子をインクジェット印刷する技術だが、任意のパターンを印刷するだけの単純な内容ではない。

 まず、流星をイメージしたパターンは、金属板の上面に4層に分けてインクジェット印刷され、パターンの一つひとつには文字盤の中央から外側に向けて徐々に色が濃くなるグラデーション加工も施されている。さらに印刷後は、表面にクリア塗装層が重ねられる、実に手間のかかる工程で作られているのだが、これにより、金属ナノ粒子で描かれた流星の模様が光を受けると微かに表情を変え、レイヤー印刷によって発色の強弱や濃淡も生まれるなど、実際の夜空を眺めているかのような奥行きが感じられるというわけだ。
M34 F8 デイト
M34 F8 デイト

世界初(※注)となる金属ナノ粒子積層技術を駆使した、新デザインの文字盤。4層のインクジェット印刷やグラデーション加工により、ペルセウス座流星群を描いたパターンは奥行きを感じさせるのみならず、角度によって濃淡が変わるなど、表情を変化させる。 ※注:腕時計の文字板への加飾において、金属ナノ粒子/金属ナノインクを積層させてプリントする技術として世界初

 一方のレギュラーバージョンの新作は、光学多層膜技術を文字盤に用いたモデルのカラーバリエーションで、今作ではグリーンを表現した。とはいえ、これは文字盤自体をグリーンに着色しているわけではない。人間の視覚メカニズムを利用して色彩を感じられるようにしているのが、光学多層膜技術を用いた文字盤の特徴である。

 基本的に人間の目は、光を捉えると視細胞がレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)それぞれの波長に応じた信号を視神経経由で脳に伝え、その信号の強さの比率によって色を認識する仕組みになっている。つまり、構造色とは視細胞の働きによって知覚できる色のこと。物体──ここで言えば、文字盤自体は着色されておらず、表面の微細な構造に光が干渉することで発色しているように見える現象を指す。

 この働きを取り入れたのが、オリエントスターを展開するエプソンが開発した光学多層膜技術。無色透明の薄膜を何層にも重ね合わせることにより、特定の色の波長のみを反射させる手法だ。しかも24年モデルではブルー、新作ではグリーンを発色させているように、膜厚をコントロールすることで、多彩な色を表現できるのも特徴だという。

 しかも、メリットはそれだけではない。M34 F8 デイトでは、職人が繊細な模様を彫り込んだ金型に真鍮の板材をプレスし、ベースの文字盤を作成しているのだが、このベース文字盤にナノレベルの薄膜を何層にも蒸着している。一般的な文字盤では塗料を厚塗りするため、繊細なパターンが隠されてしまうのだが、光学多層膜技術を用いれば、鮮やかな色彩と繊細な模様を両立できるのだ。
M34 F8 デイト
M34 F8 デイト

繊細に表現された文字盤の製造を担うのが「信州 時の匠工房」内の文字板工房。写真は24年のM34 F8 デイト製作時のもので、タコ印刷や各種パーツのセッティングまで、この工房内で一貫して行われている。

 こうした、革新的技術を駆使しながら文字盤の新しい表現を生み出しているのが「信州 時の匠工房」にある文字板工房だ。M34 F8 デイトのレギュラーモデルは、職人の手作業による金型製作や真鍮製プレートへのプレス加工、光学多層膜の蒸着、さらにはタコ印刷やパーツのセッティングに至るまで、すべての工程が同工房内で行われる。

 一方の限定モデルに採用された文字盤は、「信州 時の匠工房」が誇る時計製造技術と、エプソンが有する積層回路基盤の製造技術、さらには高精度印字技術が融合することで実現したもの。つまりオリエントスターは、今後、時計の製作技術とエレクトロニクス分野のテクノロジーを組み合わせることによって、一層高度な文字盤表現を生み出していく可能性を秘めているのだ。
M34 F8 デイト

繊細に表現された文字盤の製造を担うのが「信州 時の匠工房」内の文字板工房。写真は24年のM34 F8 デイト製作時のもので、タコ印刷や各種パーツのセッティングまで、この工房内で一貫して行われている。

限定バージョン、レギュラーモデルともに、M34 F8 デイトはシリーズのデザインコンセプトをしっかりと踏襲。ヘアラインとポリッシュで仕上げ分けされたケースはソリッドな表情を見せており、コンセプトのモチーフとなった英雄ペルセウスの力強さが表現されている。もちろん、使いやすさにも定評のあるオリエントスターだけに、実用性への配慮も抜かりない。スタンダードな直径40mmのケースは幅広い男性の手首に収まりやすく、またブレスレットにはピッチの短いH駒を採用しているので装着感も実に快適だ。
M34 F8 デイト

限定バージョン、レギュラーモデルともに、M34 F8 デイトはシリーズのデザインコンセプトをしっかりと踏襲。ヘアラインとポリッシュで仕上げ分けされたケースはソリッドな表情を見せており、コンセプトのモチーフとなった英雄ペルセウスの力強さが表現されている。もちろん、使いやすさにも定評のあるオリエントスターだけに、実用性への配慮も抜かりない。スタンダードな直径40mmのケースは幅広い男性の手首に収まりやすく、またブレスレットにはピッチの短いH駒を採用しているので装着感も実に快適だ。

M34 F8 デイト

ブレスレットには、オリエントスターではお馴染みとなったH駒を採用。ピッチが短いため手首に滑らかに沿い、快適な着け心地が実感できる。

M34 F8 デイト

搭載するのは、自社製のキャリバーF8N64。シリコン製のがんぎ車によって磁気の影響を受けにくくしているのみならず、パワーリザーブは60時間以上を確保するなど実用性も高い。

光学多層膜技術を駆使した文字盤に新色を追加するのみならず、世界初(※注)採用となる金属ナノ粒子積層技術によって、ペルセウス座流星群の新たな景色を描いたM34 F8 デイト。次々と繰り出される画期的な技術によって、この先、文字盤の表現はどこまで繊細かつ豊かになっていくのか──。オリエントスターの今後の技術進化にも期待を抱いてしまう、高度な表現が愉しめる新作である。
※注:腕時計の文字板への加飾において、金属ナノ粒子/金属ナノインクを積層させてプリントする技術として世界初

オリエントスター
M34 F8 デイト

RK-BX0007B
Ref:RK-BX0007B
ケース径:40.0mm
ケース厚:12.9mm
ケース素材:ステンレススティール(SUS316L)
ストラップ:ステンレススティール(SUS316L)、交換用本ワニ革ストラップ付属
防水性:10気圧
ムーブメント:自動巻き、Cal.F8N64、パワーリザーブ60時間以上
仕様:時・分・秒表示、デイト表示、パワーリザーブ表示、シースルーバック
限定:国内80本
価格:407,000円(税込)
RK-BX0008B
Ref:RK-BX0008B
ケース径:40.0mm
ケース厚:12.9mm
ケース素材:ステンレススティール(SUS316L)
ストラップ:ステンレススティール(SUS316L)、交換用コードバンストラップ付属
防水性:10気圧
ムーブメント:自動巻き、Cal.F8N64、パワーリザーブ60時間以上
仕様:時・分・秒表示、デイト表示、パワーリザーブ表示、シースルーバック
限定:国内20本(公式オンラインストア限定)
価格:407,000円(税込)
RK-BX0005E
Ref:RK-BX0005E
ケース径:40.0mm
ケース厚:12.9mm
ケース素材:ステンレススティール(SUS316L)
ストラップ:ステンレススティール(SUS316L)、交換用本ワニ革ストラップ付属
防水性:10気圧
ムーブメント:自動巻き、Cal.F8N64、パワーリザーブ60時間以上
仕様:時・分・秒表示、デイト表示、パワーリザーブ表示、シースルーバック
価格:363,000円(税込)
>RK-BX0005E 詳細はこちら

取材・文:竹石 祐三 / Report & Text:Yuzo Takeishi
写真:大泉 綾平 / Photos:Ryohei Oizumi